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広島高等裁判所 昭和47年(く)8号 決定

少年 S・G(昭二七・七・二〇生)

主文

原決定を取消す。

本件を広島家庭裁判所呉支部へ差戻す。

理由

本件抗告の趣意は記録編綴の少年本人、及び法定代理人父、母S・O、S・T子両名作成の抗告申立書並びに附添人○藤○敏作成の抗告理由補充書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

文件抗告の理由は、要するに、原決定の処分が著しく不当であるというのである。

そこで、本件保護事件記録、少年調査票並びに当審の事実取調べの結果に基いて調査するのに、少年は過去数回交通違反(業務上過失傷害一回を含む)を犯して罰金刑や反則金を科せられたのに、またも、本件非行(被害者二名の受傷の程度は幸い軽微であつたが、轢逃げを伴つた点で悪質である。なお、各被害者とは円満に示談を遂げている。)を犯したもので、少年は順法精神、安全運転の心掛けに著しく缺けていたというほかなく、交通事故多発の昨今、右の如き少年の反社会性は看過しえないものがある。しかしながら、本件非行及び過去の同種の非行は少年の自動車運転能力上の不適性によるものではなく、専ら、少年の順法精神、安全運転の心掛けの欠如によるものであるから、本人が自覚さえすればこれら交通事犯や道交法違反を防止することが出来るものであり、少年は鑑別所に収容されたことによつて、ようやく前記非行を繰り返してきたことを反省し、交通安全のための自覚をし、今後これら非行を犯さないことを誓約しており、その実行を期待することが必らずしも困難とは思われない。なお、原決定は処分の理由として、少年の窃盗の非行歴、従前の生活態度、交友関係、父母の保護監督能力の欠如を挙げている。しかし、少年の知能、性格、資質において、軽卒、気まぐれ、粘り強さに欠ける点が窺われるが社会生活を送るのに特に支障となるようなものは見受けられず、過去の窃盗による非行歴(二回、いずれも不処分、二回目の非行については罪の成立自体疑いがあつた。)を併せ考えても、少年が将来同種の非行を犯すおそれが大きいとは思われない。なるほど、少年は転職が多いが、これは各地の職場を転々とした父親(熔接工)に従つて、同じ仕事をしていたことによるものであつて、少年を責める訳にはいかないし、また、少年はこれまでとかく真面目に働く意欲に缺け、その交友関係も必ずしも良好ではなかつたが、その後少年は従前の生活態度等を反省し、将来平素の生活でも間違いをしないように心掛け、真面目に働くことを誓つており、さらにこれまで少年を放任してきた父母は、原審審判等でその点を指摘されて認識を改め、少年の兄と力を合わせて少年の将来については責任をもつて補導にあたり、交通事犯はもとより、日頃の生活にも十分監督をする旨誓約している。その他、少年はこれまで一度も在宅の保護処分を受けたことがない。これらの諸点に鑑みると、交通事犯である本件非行を中心として少年を中等少年院に送致し収容保護を加えなければならないほどの要保護性が存するものとは思われない。してみれば、原決定の処分は著しく不当であるといわねばならない。

よつて、少年法三三条二項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 幸田輝治 裁判官 村上保之助 一之瀬健)

参考 原審決定(広島家裁呉支部 昭四六(少)一〇八〇号 昭四七・三・一一決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は

一 自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和四六年八月二七日午後四時四〇分ころ、普通乗用自動車(広島×に××××)を運転して、呉市○○×丁目××の×○治○○方前路上を同市○○×丁目方面から同市○○町方面に向けて進行中、方向を転回しようとした際、自動車運転者としては前後左右の安全を確認して右に転回すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、左前方約一五メートルを○中○が運転する普通乗用自動車が直進して来るのを認めながら、先に転回できるものと軽信して漫然と転回した過失により、前記○中の乗用車の右前部に自車左前部を衝突させ、よつて同人に対して安静加療約七日間を要する頸椎損傷の傷害を、○中の車に同乗中の○倉○孝に対して安静加療約七日間を要する頸椎損傷の傷害を、それぞれ負わせた

二 前記の如く交通事故を起したのに、被害者の救護その他の必要な措置を講ぜず、その場所から逃走し、かつ法定の除外事由がないのに、事故発生の日時場所等法令の定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告しなかつたものである。

(適条)

一 刑法二一一条前段

二 道路交通法一一七条、一一九条一項一〇号、七二条一項

(処分の理由)

少年の非行は中学時代から始まつており、運転免許取得後はいわゆるサーキット族として交通違反、交通事故を繰り返し、処罰に対する鈍感化を来し、その社会観は規範無視のみにとどまらず規範に対して挑戦的であり、その反社会性は相当に深化している。

また、少年には勤労意欲が乏しく、正常な職業意識に欠けており、向上意欲も認められないばかりでなく不良環境への親和性を強め、不良交友を続けている。

さらに保護者は、少年の非行性に対する認識が十分でなく、その規制力はほとんどない実情であり、保護能力は十分でないものと認められる。

その他諸般の事情を考慮した結果、少年の健全な育成のためには、少年を施設に収容のうえ専門家による長期にわたる生活指導、価値観の矯正を施すことが必要であると思料されるので、少年法二四条一項三号を適用して主文のとおり決定する。

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